秋のIJT2025セミナー講演レポート/新田 真之介弁護士による『攻めと守りのブランド戦略』

秋のIJTセミナー新田真之介

2025年10月30日に行われた新田真之介弁護士による「秋のIJT2025(RX Japan株式会社 主催)」セミナーの講演レポートをお届けします。新田弁護士は現代のジュエリー業界が直面する法的課題、特に知的財産権消費者法の戦略的な活用、そしてそれらを根底で支えるべき「品格」の重要性について説いています。

新田弁護士は日本でまだ馴染みの薄い「ジュエリーロー」という分野について取り組む専門家です。今回のセミナーでは、「ジュエリーロー」をジュエリー・時計産業にかかわるあらゆる法律問題を扱う法分野と定義し、隣接するファッション業界の動向や、世界で先行する法律家集団の取り組みを紹介しています。個々の事例を紐解き、日本のジュエリー業界が法令遵守という最低ライン(コンプライアンス)を超え、社会的な信頼と満足を得るための「品格」の追求が不可欠であることを提言しました。(取材・文:嵯峨紀子)

秋のIJTセミナー新田真之介
講師:新田  真之介 氏
・(一社)日本宝石協会理事(宝石検定委員)
・(一社)日本リ・ジュエリー協議会リーガルアドバイザー
・著書『宝飾店法務マニュアル』((株)PR現代、2020年発行)
・ヒコみづのジュエリーカレッジ、山脇美術専門学校 非常勤講師
<保有資格>
・弁護士(三村小松法律事務所、東京弁護士会所属)
・(一社)日本時計輸入協会・ウオッチコーディネーター(CWC)
・米国宝石学会・Applied Jewelry Professional(GIA-AJP)
・(一社)日本真珠振興会・真珠検定シニアアドバイザー(JPPS-SA)
・(一社)日本ジュエリー協会・1級ジュエリーコーディネーター

ジュエリー業界における「品格」と戦略的法律活用について

JJA倫理綱領と「品格」の重要性
1998年に制定されたJJA(日本ジュエリー協会)の「ジュエリー産業倫理綱領」では、「消費者の信頼と満足が得られる商品の供給」「関連法令及び業界の自主基準の遵守」「的確な情報の提供」などが掲げられていますが、新田弁護士は、法律はあくまで最低ラインであり、業界はそれ以上の高みを目指すべきだと指摘しました。

近年、違法ではないが社会から批判される、いわゆる「炎上」事象が増加しています。現代に求められるのは、コンプライアンスを超えた誠実さであるとし、ハイジュエリーから地域密着の店舗まで、すべてのブランドにとって「品格のある商売」こそが顧客と社会からの信頼を築く基盤であると結論づけています。

トラブルを防ぐ鍵となる「インフォームド・コンセント」という考え方

医療分野で定着したインフォームド・コンセント(十分な情報提供と顧客の同意)の考え方を宝飾業界にも導入することが、トラブル防止のカギになるといいます。

  • 考え方の原則: 我々業界の常識と、お客様の常識との間にギャップがある時にトラブルは発生する。お客様が選ぶ際に必要な十分な情報を事前に提供し、判断していただくという姿勢が、後の「そんなこと聞いていなかった」というクレームを防ぐ。
  • 事前のヒアリングの重要性: 例えば、リフォーム受付時に「合成ルビーの可能性がある」とプロとして判断した場合、まずお客様が何を重視しているのか(譲り受けた情緒価値か、将来の売却価値か)をヒアリングし、その上で鑑別の選択肢を伝えることが信頼に繋がる。一方的な告知や、気を遣った不告知は、どちらもクレームの原因になり得る。
  • 法律知識の習得:法律はビジネスのルールであり、「オフサイドのルールを知らずに戦術を練れない」のと同じ、最低限のルールを把握することが、デザイナーやブランドの「自由」と「強さ」に繋がる。

ジュエリー知財をめぐる攻防

知的財産権は、「誰に頼んでも同じ」ものを買い叩かれる状況を打破し、「あなただけしかできない」デザインや技術を法律で守るための強力な「武器」といえます。知的財産権にはそれぞれ「個性(強み)」があり、戦略的な使い分けができます。

商標権の活用

商標権は、ブランドのロゴや名称だけでなく、特定の立体形状も保護できます。一度登録されれば、更新を繰り返すことで半永久的に独占できる点が最大の強みです。

  • 区分(ジャンル)の概念: 商標は「身飾品(14類)」や「加工業(40類)」など、指定された区分とのセットで独占権が発生する。この「陣地取り」の考え方が重要。
  • シリーズ名・商品名の登録:ブランド名だけでなく、シリーズ名や商品名を登録することで、広範囲な陣地取りが可能。
  • 立体商標の事例:ブランドのロゴがない状態でも、その形状を見た大多数が特定のブランドだと認識できる場合に登録される。現状、宝飾業界ではタサキの「バランス」が唯一の登録例。
  • リメイク・アフターダイヤは商標権侵害に注意:ロレックスやカルティエなどの正規ブランド品を無許可でカスタムする行為は、商標権の侵害にあたるため要注意。

意匠権と部分意匠の戦略

意匠権はプロダクトデザインを保護し、保護期間は25年となります。

  • 新規性喪失の例外規定: インスタグラム等で公開した時点で新規性を失うが、「新規性喪失の例外規定(公開後1年以内)」を逆手にとり、IJTなどの展示会で試験的に公開し、市場の反応を見てから登録出願するという戦略的な活用も可能。
  • 部分意匠の活用:ネックレス全体ではなく、特徴的な「引輪のパーツ」や「指輪の腕」など、デザインの重要な一部だけを登録する部分意匠は、模倣者がその部分以外を変えても侵害を主張できるため、全体意匠よりも保護範囲が広くなる場合があり、戦略的に重要。

特許権・実用新案権をどう活用するか?

特許は、「自然法則を利用した技術的思想(ギミックや仕掛け)」を唯一保護できる権利である。デザインを変えられても、同じ仕掛けを使っていれば侵害を主張できる、強力な飛び道具となり得ます。

  • アングルリングの事例:あらまほしの「アングルリング」は、リングを垂直ではなく傾斜をつけることで、中石が回るのを防ぎ、かつ指先が長く見えるというシンプルだが画期的な発明で特許が認められた。
  • メデルースリングの事例:TOKAIRIN/メデルースリングは、ギメルリングの機構を応用し、石留め不要でルースを入れ替えられる指輪で特許が認められた。特許は「科学的に難しいこと」でなくとも、新規性・進歩性があれば取得可能であると解説された。

不正競争防止法

国内発売から3年間という期間制限があるものの、無名ブランドでも他人の商品の「形態模倣行為」を禁止できます。若手デザイナーが巨大企業に真似された場合などの強力な武器となるので、展示会で写真を撮ることを許可する際は必ず名刺をもらうなどの対策が効果的です。

お客様から信頼されるジュエラーになるために

消費者契約法:取消し権の対象

消費法と呼ばれる法律には、次のようなものがあります。(1)消費者契約法 (2)景品表示法 (3)特定商取引法 など。

一方、顧客に「取消し権」を与え、契約を無効にできる事象として「不実告知」「断定的判断の提供」「不利益事実の不告知」の3つがあります。

  • 不実告知(事実と異なることを告げる)
    • 典型例: 仕入れ元から「カシミール産」と聞いていたのでそう表示して販売したが、後に鑑別で「マダガスカル産」と判明した。これは、客観的に真偽が判断でき、価格に影響を与える事項のため、不実告知にあたる。
    • 問題ない例: 鑑別機関Aで「オイルの痕跡がない」というレポートを提示して販売後、顧客が別の鑑別機関Bに出したら「オイル微量あり」となった場合。これは販売時に客観的事実を伝えており、将来的な別機関の結果まで保証したものではないため、原則として問題ない。
  • 断定的判断の提供: 将来における変動が不確実な事実について、「5年後には必ず倍以上に値上がりしますよ」などと断定的な判断を提供することは、取消し権の対象となる。
  • 不利益事実の不告知: カラーダイヤモンドの色因について、「A鑑別機関でナチュラルというレポートが出ている」ことだけを伝え、不利益となるB鑑別機関の「トリート、またはアンディターミンド」というレポートを隠蔽する行為は、不利益事実の不告知にあたる可能性があり、これは「品格」の問題にも直結する。

景品表示法:不当表示の禁止

「有料誤認表示」「有利誤認表示」などの不当表示は禁止されている。

  • 有料誤認表示(品質・規格の偽り)
    • 天然と養殖: 「天然真珠」は存在するため、「養殖真珠」に対して「天然」や「ナチュラル」と表記することは、ガイドライン上、不適切である。
    • 商品画像加工:カラーダイヤモンドなどの色味を画像改変する加工について、顧客に誤解を与える表示は、品質を著しく優良であると示す行為にあたる。
  • 表示規定の遵守
    • JJAの表示規定では、「ロジウム仕上げ」「プラチナ仕上げ」といった一般の消費者に分かりにくい表現は不適切であり、必ず「ロジウムメッキ仕上げ」等と表示すべきである。
    • 「ケシ」という表現は、海水真珠の用語であるため、淡水養殖の副産物に対して用いてはならない。
  • 有利誤認表示(価格の偽り)
    • 二重価格表示: 割引価格を表示する際の比較対象価格について、政府のガイドラインは厳格である。
    • 「参考上代」の不当表示:家電製品と異なり、一般消費者がカタログ等で容易にアクセスできない「メーカー希望小売価格(参考上代)」を比較対象とした「参考上代から〇〇%オフ」といった表示は、不当表示に当たる。

おわりに

インターネットが普及し、消費者も簡単に情報が得られる現代において、過去の「自己流でなんとか解決」といった方法は、SNS等で即座に拡散され、ブランドの信用を大きく損なうリスクがあります。

ブランドを長く守り育てるためには、従業員に責任を押し付けず、顧客からの問い合わせに対して迅速かつ誠実な対応ができるよう、法律の専門家との相談体制を構築することが不可欠です。新田弁護士は、ジュエラーが法律知識をまといし「品格」をもって戦略的にビジネスに取り組むことこそが、ジュエリー業界が今後も発展していくための要となると締め括りました。

 

 

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