今日は、群馬県前橋の芸術文化れんが蔵で開催されている「伝承展」に行ってきました。
このイベントは、着物専門店の小川屋さんの伊藤大介社長が音頭を取り、
前橋まちなかエージェンシーの橋本薫さん、染織作家の森尻春司さん、大松さんが集い、
実現したイベントです。
Photo:小川屋 伊藤大介社長と前橋まちなかエージェンシーの橋本薫さん
このイベントでは一切販売を行わず、着物や染織について詳しい知識があるわけではない若いスタッフさんたちが京都へ出向き、染織の現場に触れながら展示方法や演出を考えるというスタイルを取っていました。
初めて訪れた芸術文化れんが蔵は、民家が並ぶ街の中にあり、
趣き深い雰囲気を醸し出していました。
このれんが蔵に向かう道中にある川沿いの通りには、レトロでモダンなお店が並び、
ちょっとしたお散歩コースになっていました。
蔵らしく鉄の重い扉をスタッフさんが開けてくれて中に入ると、仄暗い空間の中に、シンプルでおしゃれな着物と帯のコーディネイトが展示されていました。
そして、ふと見上げるとそこには、
型紙の精緻な柄が、プロジェクターで映し出され
まるで夜空に広がる打ち上げ花火のようでした。(見出し画像)
広い蔵の中は、1コーナーごとにパーテーションで区切られていて、次に何が展示されているのか
がわからないようになっていました。
次に展示されていたのは、
図案作成と題されたコーナー。
実際に作成途中の図案が展示されていました。
鉛筆で丁寧に下書きをし、
色を塗っていくんだろうなと
そのあまりの出来栄えに見入ってしまいます。
この絵を見るだけでも
価値があると思うクオリティです。
そして柄染めのコーナー。
そこにはなんと一つの反物を作るのに59枚もの
型紙を使って染めた帯と
50年も前の型紙の実物が展示されていました。
初めてこうした型紙や帯を見た人は、
にわかにはその制作工程が
理解できないんじゃないかと思ってしまいます。
型紙を一枚使っては染め、
また一枚使っては染めを59回繰り返してようやく出来上がる柄。
気の遠くなる作業ですよね。
そして反物を竹ひごに針がついたような伸子と呼ばれる棒を使ってぴんと伸ばして吊るしてあるコーナーへ。
刷毛を使って色を乗せていく工程。
次に反物を洗って干す工程のコーナーへ。
このコーナーで伊藤社長が教えてくれたのですが、
各コーナーごとに、作業をしているときの音が流れているのです。
展示物や写真を見ながら、染織工程を五感で感じられるようにとの演出でした。
最後のコーナーはとても広々とした空間で、
出来上がった反物を写真のように、広げて展示していました。
通常、呉服屋さんや問屋さんではこのような展示は
スペースの関係上しませんが
こうして広げれらた反物を見ると、
想像以上の迫力とインパクトですね。
同行したうちのスタッフは、
すごい!とか素敵!などと感嘆の声を上げていました。
染織工程を初めて見る人にとって、
こうした展示というのは、ものすごく刺激的なんですね。
Photo:着物と帯を掛け軸にしたもの
このスタッフは、
「着物の格調高い感じと、伝統文化と、
ファッションと、アートの融合が素敵!」と言ってました。
日頃呉服業界にいない人が、
染織の現場で感じたままを
ストレートに五感で表現した演出。
確かに、呉服店の展示会でもこうした染織工程、
いわば裏側の部分をここまで贅沢に見せるということはまずありません。
展示会などの催事では、販売することが目的なので、できるだけ多くの着物や帯を効率的に展示し、
見やすさと販売のしやすさを追求します。
しかし、今回のこの「伝承展」というイベントを拝見し、
本来伝えるべきことは、
こうした染織にかける職人さんの情熱や、
各工程でのこだわり、具体的な創作工程、
そこにある息づかいやドラマを伝えることなんだと痛感させられます。
人々が知りたいのは、ものづくりへの飽くなき挑戦の姿なんですね。
今は技術革新によって、どんなに複雑な色柄でも
コンピュータとインクジェットプリンターで
実現することができます。
そんな時代にあって、全てを妥協せず、
手間暇をかけて
納得できる染織を作り上げることに、
熱いものを感じます。
おそらくこれを見た地元の人たちは、
どうして着物の美しさにこんなにも魅了されるのか、その理由を実感しただろうと思います。
日頃ウェブサイトのアクセス解析を行なっていても
同じような実感を持つのですが、
お店側はどうしても「売り」に関する情報を発信しがちですが、ユーザー側は、着物のことや楽しみ方、コーディネイト方法、
組み合わせ方、染織の種類や歴史などを知りたがります。
そして、これらユーザーの知りたいことに答えることができるウェブサイトほど検索順位は上がり、
結果としてお店への来店数も増えます。
売ろうとするのではなく、
伝えていくことに徹するという今回のチャレンジ。
当然のことながらコストがかかり、
リスクがあります。
が、こうした今の時代にこそ
ふさわしいイベントが、
ここ前橋だけでなく、全国で行われていったら、
もっともっと多くの人たちに、
着物や染織の本当の魅力が
伝わっていくのではないか、
とそんなふうに思いました。