<モデレーター>
(一社)日本宝飾品貿易協会 代表理事 深澤 裕 氏
<パネリスト>
プリモ・ジャパン(株)代表取締役社長 澤野 直樹 氏
フェスタリアホールディングス(株)代表取締役社長 貞松 隆弥 氏
(株)エフ・ディ・シィ・プロダクツ 代表取締役社長 瀧口 昭弘 氏
IJT初日の朝、活気のある会場でトークセッションが始まりました。宝飾業界大手3社のトップがアフターコロナの展望について、市場の予測とともに自社の具体的な対策まで、忌憚のない意見を交わしました。
モデレーターの深澤氏からは冒頭、コロナ後の業界動向について概説があった。コロナによる市場への影響はおよそ20〜40%のダウン、収束後は今までの逆転現象が起こるであろうことが紹介されました。(取材・文:嵯峨紀子)
逆転現象とは、距離や立地の逆転、規模の逆転など。繁華な場所の出店が有利というわけではなくなってくるというような逆転現象が、さまざまなところで起きてくるという予測です。このような視点のもと、以下の4つの質問事項に沿ってトークが繰り広げられました。
質問1:コロナ収束後の予測(経済や市場規模は元に戻る?戻らない?)
瀧口 ロックダウン後は落ち込んだが、12月を前に在庫は適正化しつつあります。収束には時間がかかるとみていて2年は厳しいと覚悟しています。一方で新たな商機があるとも感じています。
貞松 アフターコロナにはマーケット規模は戻るとみていますが、ウィズコロナ期間である来年からが一番厳しい時期になると思います。やはり2年は厳しいと。
澤野 弊社はリーマンショックや震災には業績が左右されませんでしたが、ブライダル市場のシュリンクについては対策が必要と感じています。
質問2:変化するもの、変化しないもの(サプライチェーン、メーカー/問屋/小売りの役割、消費者の変化)
瀧口 ファッションの変化に対応するための策は常にディスカッションしています。今年の6月以降はクリスマスなどのアニバーサリーには「コトからモノ」への価値観の転換が起こると考え、ストーリーや想いを大切にすることを徹底しようと思っています。
深澤 サプライチェーンの様子はどうですか?
瀧口 仕入れルートに問題はありませんが、下請け企業の体力が心配です。幸い、うちが取引している先は乗り越えられると聞いていますが、供給を元気にして欲しいとは思いますね。
貞松 ロックダウンから2か月は入金ゼロでしたから、金融機関とのやりとりは活発にしていました。コロナが明けたらジュエリーはめちゃくちゃ売れると説得し続けましたが、金融機関は全然信じませんでしたね。結婚式が挙げられないからブライダルの単価は上がっています。世界的危機の後には宝石が売れるんです。震災の時もそうでしたが、今回も水面下で同じことが起こっています。
4月1日に伊勢丹で新しいショップをオープンしました。8日にはロックダウンしてしまったんですが。オンラインでお客さまがデザインして我々が材料調達してベトナムの工場で作らせる。このシステムを協業してプラットフォーム化していけばと考えています。Eコマースとは別のものでお客さまを呼び込むためにデジタルを使うんです。
澤野 ジュエリーの親和性がより強固になると感じています。顧客の動向はすごいスピードで変化するので、サプライチェーンのスピードを上げていかないと発展はないと考えます。調達関係は中華圏で一部崩れましたが、国内は大丈夫でした。
質問3:デジタルはジュエリー業界にどこまで浸透するか? デジタル世界の中でリアル店舗の存在価値は?
瀧口 想定していた未来が5年くらい早まっていると感じています。Eコマース日本一を目指し、実践しています。11月からZoom接客をスタートしますが、4℃ではECやライブチャットとの融合を目指しています。
貞松 4℃はリアル店舗あってのブランド。アイプリモもそうですが、リアル店舗が ECに蹴散らされることは100%ありえません。これからはコミュニティー化とパーソナライズ化が両立する時代です。店舗がなければECの単価はそこまで上がらないですし。
これからは
・Eコマース
・ライブチャット
・オンライン接客(店舗で店のメンバーが接客)
・店舗での接客
の4つの接客パターンになるということです。
澤野 うちはゼクシィを見ての来店が多いので広告は外せません。Eコマースは十数年試行錯誤してきて2%どまり。来年数千万をEコマースに投資する予定なので、お客の変化を見てみようと思っています。
質問4:ブライダルジュエリーの未来(婚姻数の減少、店舗飽和、競争激化)
瀧口 婚姻組数の本格的な低下が始まるまで、あと数年は安定していると思いますが、これからはマリッジというカテゴリに括らず、LGBTやマイノリティーのことも踏まえて「ラバーズリング」「ステディリング」として打ち出したいと考えています。多くのブランドはふるいにかけられると思いますが、残存者利益はあると思っています。
貞松 これからのブライダル業界はみんなで協力してやっていかないと、たくさんの業者が倒れることになると思います。
澤野 現在はエンゲージリングの取得率は50%。昔は75%でした。披露宴ができない分、一組あたりのダイヤにかける金額は上がっていますので、取得率と単価アップを狙っていこうと考えています。
深澤 離婚率が増えていますが、セカンドマリッジの需要は?
澤野 うちの数字の30%が再婚での売り上げです。2回目でもマリッジは購入する傾向です。
深澤 ジェンダーレス向けのペアリングなども考えていますか?
澤野 ジェンダーレス、LBGTへのアピールは積極的にローンチしています。全体の数%は占めると思います。
最後に、業界を挙げて需要を創り出すヒントは?
瀧口 業界をあげて絆系のプロモーションをしていきたいですね。JJAの小山会長もいらっしゃるのでお願いしたいですが、全体で音頭を取ってもらわないと、今回(コロナ)だけはちょっと違うと思っていますので。来年はベンチャーに戻るつもりで新しい提案を投げかけていきたいと準備しています。
貞松 まさしく「協業の時代」。競争している場合ではなく真剣に考えなくてはこの業界自体がなくなってしまう。それにはやはりブライダルから、「大切なものって何だろう?」と考える人々に対して「それはジュエリーです」とプライドをもって言わないと。コロナのおさまった武漢でもブライダルが売れているそうです。日本でも今やらないと、おさまってからでは遅いんです。マーケットが縮むと言わず、広げましょう。今、億単位のお金をかけてプラットフォームを開発しているところです。
澤野 中国の市場は日本の14倍です。中国のユーザーに気に入ってもらえているのは、日本の企業であることの信頼です。来年以降は東南アジアへの進出も計画しています。オンラインでグローバルを見据えて業界の発展を促したいと思います。ブライダルのセグメントでリクルートも巻き込んで業界が一枚岩になるべきです。次に適正価格。今年から値引きをせず適正価格の販売をしています。業界をクリーンにしていかなければと考えています。